新潟県柏崎市。日本海を望むこの地に、1804年(文化元年)創業の歴史を持つ酒蔵「阿部酒造」があります。200年以上にわたり地域とともに歩んできたこの蔵が、近年「阿部酒造=革新の蔵」として注目されるようになった背景には、6代目・阿部裕太氏の存在があります。
阿部氏は東京大学を卒業後、外資系企業での勤務を経て家業を継ぎ、蔵の大改革に乗り出しました。そこで目指したのは「若い世代に響く日本酒」「地元の誇りとなる酒蔵」の実現。伝統を守るだけではなく、あえてそれを“更新”することで、酒造りの新たな可能性を模索しています。
そんな阿部酒造が送り出す代表的銘柄が「あべ」シリーズです。一見すると平仮名の素朴な名前ですが、その中には日本酒の奥深さと、造り手の強い意志が込められています。
「あべ」はすべてが少量仕込み。酒米の個性を最大限に引き出し、発酵管理や温度帯、酵母選定にも細心の注意を払って醸されています。味わいの特徴としては、新潟酒に多く見られる「淡麗辛口」とは一線を画し、しっかりとした旨みやフレッシュな酸が感じられるモダンな味わい。口に含むとじんわりと広がる米の甘み、飲み込んだあともじわりと余韻が残る心地よさがあります。
また、「STANDARD」や「no title」など、シリーズごとに味わいの違いが設計されており、ワインのようにヴィンテージやコンセプトを楽しむことができるのも「あべ」ならではの魅力です。
その自由で挑戦的な酒造りは、いわゆる“クラフトサケ”という言葉で語られることも多く、若い世代の酒ファンを中心に全国的な人気を集めています。実際に、あべシリーズは入荷後すぐに完売となることも少なくなく、酒販店や飲食店でも「見つけたら買い」と言われる存在です。
そして何より、「あべ」の根底に流れているのは“人と土地へのまなざし”です。柏崎の気候、風土、そして地元の人たちとの関係を大切にしながら、地域に根差した酒造りを続けている。だからこそ「あべ」の一杯には、ただの味わいを超えた「物語」が詰まっているのです。
新潟の地酒のイメージを塗り替える、日本酒の未来を感じさせる一本。「あべ」は、いま飲むべき、そして語るべき銘柄のひとつです。